王妃の資格 10

     

        これは、夢なのだろうか?
       

        「私は・・・」
       戸惑いを隠せないフィア。
       「そろそろ、あがろう」
       次の瞬間、フィアはフィオスに抱えられ、すうっと水から離れた。
       「や、やめて、私は大丈夫だから」
       「大丈夫だ、お前は見ない」
       フィアを抱え、まっすぐ前を見て歩くフィオス。
       (そういう問題じゃなくて、これじゃ、まるで恋人同士だわ。)
       困る。デントフォール王にどうやって会えばいいというのだろう。
       「まあ・・そうだな、もう少し大人の女性になれよ?」
       「!!」
       な・・・な・・・!声にならない声。
       「王はしっかりとした、大人の女性が好みだからな」
       フィアは急に大人しくなった。
       「ん?どうした?」
       「あなたの口から、その言葉は聞きたくなかったわ」
       フィアはフィオスを見ないでつぶやいた。
       「私は、あなたを・・・」
       「愛してる、か?」
       心に秘めて、言わないはずだった想い。
       フィアは戸惑い、後悔しているようだった。
       まるで何もかもを見透かすような紫の瞳。
       じっと今度は、フィアがフィオスを見つめる。
       「でも、私は、あなたのものになれない。」
       まるで、何かを秘め、訴えようとするかの眼差し。
       「君はいい后になるだろう」
       「さっきは王の好みじゃないと言ったのに?」
       「王は君を選ぶだろう」
       「え・・・・?」
       事情が飲み込めないフィア。
       「でもまだ、試験を受けてないわ」
       「試験は、もう終わりだ」
       「ますますわからないわ、フィオス?」
       「俺が、試験の担当だからな」
       「わざと、選んでくれなくてもいいわ」
       そうじゃない、という顔をするフィオス。
       「どうして、試験を受ける姫を一人ずつ呼んだかわかるか?」
       「あ・・・」
       フィアもわかったようだ。
       「私で最後のはず・・・」
       「王は姫君達の本当の姿を見たかった。」
       「普段の、本当の私達を見極めようと、デントフォール王は、
       私達をお試しになったのね?」
       「まあ、そういうことだな」
       うーん、と頷くフィア。
       「わかるわ、私ももし王だったならそういうことをするかもしれない」
       真剣な表情をするフィアをフィオスは笑った。
       「そろそろ、着替えろよ?風引くぞ」
       フィアをおろし、後ろを向くフィオス。
       「も、もうちょっと離れて欲しいの、フィオス」
       「冷たいな、命の恩人にその態度か?」
       「もう、フィオス!?」
       ハハハ、とフィオスは笑った。