王妃の資格　8

　　　　　食事をとった後。
　　　　　フィアは少し外に出たいとフィオスに相談した。
　　　　　「近くに川や湖はあるかしら？」
　　　　　「あるが、君を一人で行かせるわけにはいかない」
　　　　　え、とついつい困った表情をするフィア。
　　　　　「い、いいの、大丈夫よ、一人で行けるわ」
　　　　　うつむき、自分の顔がだんだん赤くなることに気づく。
　　　　　ますます気まずい。
　　　　　それを見て面白がるフィオス。
　　　　　「なんだ、体を洗いたいのか？」
　　　　　「！」
　　　　　どうやらそのとおりのようだ。
　　　　　ますます顔が赤くなるフィア。
　　　　　「やだ、からかわないで！・・・本当にそうなんだけど」
　　　　　ぶっと思わずふきだすフィオス。
　　　　　「あっはははは！」
　　　　　思い切り笑うフィオスに、うろたえるフィア。
　　　　　
　　　　　やさしい空気が、二人を包んでいた。
　　　　　

　　　　　ドクン　ドクン
　　　　　心臓の音が聞こえる。
　　　　　
　　　　　フィオスは、紳士だった。
　　　　　フィアの見えない、それでいて近くの木の下にいてくれた。
　　　　　
　　　　　（着替えを準備しておいてよかったわ。）
　　　　　服を置くと、フィアは湖にゆっくりと入って行った。
　　　　　
　　　　　月が出て、湖にも明かりが反射されて映っている。
　　　　　「きれい」
　　　　　思わず足が進む。
　　　　　グラッ。
　　　　　（え・・・・・）
　　　　　フィアは足場を失い、自分が溺れる事を悟った。
　　　　　「フィオ！」
　　　　　一生懸命叫ぼうとしたが、水を飲み込んでしまってそれ以上何もいえない。
　　　　　ゴボゴボという音と共に苦しさは増す。
　　　　　（もう、だめ。）
　　　　　意識が遠のく、その時。
　　　　　グイっとすごい力で引き戻された。
　　　　　かすむ目の先に蒼白した顔に、今まで見たことない程真剣な瞳を、見たような気がした。
　　　　　（フィオス？）
　　　　　「大丈夫か！？」
　　　　　ごほごほと必死に息をすおうとするフィア。
　　　　　（くるしい・・・・）
　　　　　瞬間、フィアの唇をわって何かが入ってきた。
　　　　　（！）
　　　　　情熱的で、圧倒的でひどくうろたえる何か。
　　　　　そのおかげで息が楽になった。
　　　　　
　　　　　しばらくたって、やっと意識が鮮明になったフィアは、自分をがっしりと掴む相手を見上げた。
　　　　　まだ、唇には先ほどの余韻がある。
　　　　　「まだ、苦しいか？」
　　　　　（え・・・・？）
　　　　　そこには、必死に冷静を保とうとするが、フィアの安否を気遣うフィオスがいた。
　　　　　「おまえを・・・・・」
　　　　　ぼうっとフィオスを見つめるフィア。
　　　　　「いや、何でもない」
　　　　　「キ・・・ス？」
　　　　　フィアは思わずつぶやく。
　　　　　そして、ハッと我に返った。
　　　　　
　　　　　私、もしかして裸のまま・・・・・！？