王妃の資格 4

     フィアは馬車を降り、道に倒れている老人の方に向かった。
     行動があまりにも早すぎて、フィオスは馬車から降りようとする彼女を止めきれなかった。
     それとも、もともと止める気がなかったのか。
     
     「どうされましたか?」
     フィアはかけよるとそっと老人がびっくりしないように小声でささやいた。
     後ろにはもうフィオスが立っていた。
     「フィオス、彼女を起こしてくださらない?」
     フィオスは何も言わず老人をおこした。
     「おなかがすいているのですね?」
     老人は何もいえないでいたが、頭をこくこくとふり、おなかがすいていることをしめした。
     「フィオス、ごめんなさい、私の今夜食べるはずのお弁当があるはずなの、それを・・・」
     「とってきて欲しい、ですか?フィア姫」
     少しあきれたようにフィオスはつぶやいたが、フィアに対する眼差しは優しさを含んでいた。
     
     (多分、彼女は長くはいきれない)
     骨と皮だけの老人を見て、フィアは思った。
     老人は与えられた食事をゆっくりゆっくり味わって食べていた。
     久しぶりの食べ物だったからなのだろう
     噛む力ももうすでにないのかもしれない。フィアは込み上げて来る涙をこらえ、老人
     に向かって微笑んだ。
     そんな自分をずっとフィオスが見つめていることに、このときのフィアは気づかなかった。
     
     「あの老人をどうする気です?」
     老人に聞こえない範囲にフィアを連れて行き、フィオスはフィアに問う。
     「この国には彼女のような人が沢山いるのでしょうね」
     そう、いまフィア達が通過している国は、けっしていい王国とは言えない国だった。
     国王は民を弾圧し、己の利益だけしか考えない、そんな国王が統治していたからだった。
     
     涙がこぼれた。
     フィアは静かに泣いた。我慢などもうできなかったのだ。
     「彼女をちゃんとした病院に移して欲しいの」
     フィオスにじっと見つめらる。
     「お金はどうするのです?」
     「これを」
     そう言ってフィアは自分の髪飾りを取ると、フィオスに手渡した。
     「私の国で代々受け継がれてきたものよ。売ればかなりするはずなの」
     ふう、とフィオスはため息をついた。
     「君が我が王の妻になるなら、いい王妃になるだろうな」
     「そんな事言われてもうれしくないわ」
     そう、フィアの頭は先ほどの老人と王に虐げられているこの地の民のことでいっぱいだった。
     「あの老人には面倒を見てくれる者も手配する。それでいいか?」
     「おりがとう」
      フィアは涙をふき、フィオスに微笑みかけた。
     「かんざしは本当にいいのか?」
     「それが一番高価なの。それに、私がしたこと、お父様は喜んでくれるはずだわ」
     「うわさどおりのいい国王なのだな」
     「ありがとう、うれしいわ」
     二人はみつめ合った。
     「君は、国の為、アース王の命令で、試験を受けに来たんだな」
     「・・いえ、それが、私は自分からわがままを通して、試験を受けに来たの」
     少し困った表情をするフィア。
     「アース王は反対したのか?」
     興味ありげな、探る目つきをするフィオス。
     「いえ、反対はしなかったけれど、賛成も最初はしなかったわ」
     フィアは微笑んだ。

     その時から、何かが変わり始めていた。