王妃の資格 3



       しばらく沈黙が続いた。
      フィアは怒りもしないでくすくすと笑い出した。
      フィオスは少し目を細めた。
      「おかしいわ、フィオス。おかしすぎるわ」
      「・・・どうして笑っていらっしゃるのですか?」
      「あなたにはそういう女に見えたのね。だとしたら謝るわ」
      「よければ敬語でなくふつうにしゃべってほしいのだけど。よろしいかしら?」
      「まだ理由を聞いてない」
      急に口調が変わったことに驚きもしないでフィアは相手をまっすぐと見た。
      「そうね・・富と名誉ね・・・。確かに誰もが欲しがるものかもしれない。でも」
      フィオスが新鮮なものを見るような視線でこちらを見ていた。
      「でも?」
      「でも、私には必要ないわ」
      その言葉を聴いた瞬間から、フィオスがフィアを見る雰囲気は変わったかのように見えた。

      
      「あなたは、女嫌いなの?」
      「・・・・・」
      「だとしたら、私の案内役なんてさせてごめんなさい」
      「君が謝ることじゃない」
      急な言葉の変化に彼女は怒ろうとしなかった。
      「やっと、あなたらしい口調になったわね」
      「計算してしゃべっていたのか?」
      フィオスは少し間をおいてから言った。
      「そういうわけじゃないけど」
      「そう、私がどうしてデントフォール王の所に嫁ぎたいかについてね?」
      彼がじっと私を見てる。フィアは胸を高ぶらせていた。
      「国の為にか?」
      「そう、国の為によ。お父様の治める王国は小さいわ。民に愛され支持されているし、
      とても素敵な国よ、誇りに思ってる。でも、問題は領地が小さすぎるという所なの」
      「なら、自分の気持ちはどうする?」
      挑発的な言葉。
      「え・・・・?」
      「君を妻にと思っている男は多いのだろう?」
      ドクン。心臓の音が聞こえてくる。
      「聞こえていたのね」
      彼の口から聞きたくなかった言葉だったのかもしれない。自然に声が低くなる。
      「デントフォールはいい王国だと聞いたわ。民も王を支持しているって。
      商業も、栄えているし、軍事力もある。それを統率できているのだから、デントフォール王は
      とても優秀な王なのだと思っているの」
      彼の反応がない。だまって話を聞いている。
      「だから・・・・」
      突然、馬車が止まった。
      勢いで倒れそうになるフィアをしっかりとフィオスが支えてくれた。
      「何事だ」
      どうやら人が道の前に倒れているらしい。