王妃の資格 2


         

        フィアは別れを惜しむ間もなく、向かいに座っている者がいるのに気がつき,
       挨拶をしようとした。
       相手を見た。そして―
       一瞬でフィアは彼に魅了されてしまった。
       それは彼の外見でなく、彼自身に、といっていいのだろうか。
       相手をすごく知っているわけでもない。けれど・・・
       
       挨拶をしようとしたが、言葉が何も出ない。こんなことははじめてだった。
       
       漆黒の髪に紫水晶のような深く透明の瞳。
       がっしりとした体つきに優雅な気品を感じさせる動作。
       目と目が合う。
       (すいこまれていきそう・・・)
       フィアはおもわず心の中で思ってしまった。
       「お待ちしておりました、フィア姫」
       丁寧に挨拶をされ、フィアは我に返った。
       「はじめまして。フィアと申します」
       フィアは言葉が出て来れたので安心し、微笑んだ。
       「よろしければ名前を伺いたいのですが」
       「案内役のフィオスと申します」
       「フィオス様ですね」
       「どうぞフィオスと読んでください」
       涼しげなそれでいて深みのある声だった。
 
       (いけない)
       私はデントフォールの王妃になるためにここにいるのだから。
       民のためにもお父様のためにもそうすると決めたのだから。
       フィアはこのまだ幼く淡い想いを心の中にしまおうと決めた。
       今なら、まだこの気持ちを抑えることができる。
       自分の今まで一度もなかった感情に戸惑いながらもフィアはそう思った。
       
       だがそれは彼女の大きな誤算だった。

       馬車はガラガラと進むべき道へと進んでゆく。
       「失礼ながら、いくつか質問したいのですが、よろしいでしょうか?」
       「よかった、わたくしもあなたに聞きたいことが沢山ありますの」
       「何でも聞いてください。王宮に着くまでは私がフィア様の案内役を勤めさせて
       頂く事になっております」
       冷静な声。
       「そうですの。よかったわ」
       「わたくし、あなたの主人であるデントフォール王のこと、あまりくわしく
       知っておりませんの。よければ色々と教えてくださらないかしら?」
       フィオスはまるでそう言われるのをわかっていたかのような表情をしている。
       「そうですね、王は気難しい人ですよ」
       「ええ。そうみたいですね」
       「では、王がもうかなり年をとっていることもご存知ですね?」
       「わたくしのお父様と同じくらいだと聞きましたが」
       「では、あなたはそれを承知で王妃になる試験を受けに?」
       低く探るような声。
       「ええ、そうですね」
       「今ならまだ間に合います、ちゃんと好きな男性の所に嫁いでください」
       「え・・・・」
       「富と名誉がそんなに欲しいのですか?」
       フィオスは試すかのような目線でフィアを見つめた。