王妃の資格


       フィアには使命があった。そう、国の行く末に関わる重大な使命が。
       だが。

       「お待ちしておりました。フィア姫」
       彼を見た瞬間、フィアは恋に落ちてしまった。
       彼の静かで深みのある瞳に見つめられドキドキしていた。
       心、惹かれた。
       
      
       出会いがあった数分前。
       
       「フィア、わかっておるのだな」
       威厳のある、だが優しい声。
       「ええ、わかっております、お父様」
       相手に心配をかけぬよう笑みを見せるフィア。
       「それなら行ってくるがよい。道中、くれぐれも気をつけるように」
       「私たちはここからあなたを見守りますね、いとしいフィア」
       王の傍らに立っていた王妃が微笑み、そっとフィアの額にキスをした。
       
       馬車がこちらに向かって来るのを確認し、フィアは自分に出来る最高の
       笑顔を見せた。
       
       そう、彼女の父が君臨する王国はけして大国とはいえず、小さな小国だった。
       幸運なことに近頃は戦もないこの世界で、小国ながらも存在できていたのだった。
       (でもいつまでもこのままではいけない。)
       フィアは思った。
       そして、とった行動が、隣国に嫁ぐことだった。
       理由は簡単だった。大国に嫁ぐことで交友関係を結び、小国である父のこの国を守って
       欲しかったからだ。
       そう、彼女は自分から行動を取ったのだ。
       
       すべてはお父様と、国王を慕う民の為に。
       自分に出来る最大のことはきっとこれしかない。
       だから、フィアは決心し、国王も承知したのだった。
       きっと国王はそんなフィアを心の中でうれしく思ったに違いない。
       自慢に思っていたかもしれない。
       
       「王に見初められなかったら、帰って来い。お前をフィアンセにと思っている者は
       沢山いるのだから」
       馬車に乗り込もうとするフィアに、父である国王はやさしい口調で言った。
       フィアは少し困った顔をしたが微笑んで馬車の中に入った。
       
       「行ってまいります」
       馬車は動き出した。
       大きな大きな運命をつれて。