王妃の資格
<フィオス編14>


     「いくのか?」
     「ええ」
     馬車を降りて、城の中へと歩き出そうとするフィア。
     が、腕をフィオスに取られてしまう。
     「愛してる。今も、これからも」
     「・・・私は、もうあなたの事を愛せない。愛さない。どうか私のことは、忘れてください」
     背を向け、フィアはフィオスを見ようとしない。
     「君が愛しているのは、俺だ」
     フィアは何も答えない。
     「あなたが言ったのよ、私は王妃になれると」
     何も言わないで。フィアの頼りなげな背中がそう告げていた。
     もし、フィアが案内役としての自分を選ぶなら、フィオスはこんなにも彼女を愛さなかっただろう。
     フィア姫は、いつも自分のことよりも、他の者の幸せを考える。
     フィオスはそんな彼女を、好きになったのだ。
     今も、自分の幸せよりも、自分が出来るベストを尽くそうとしている。
     「・・・君を、祝福する。フィア」
     掴んだ腕がほどかれた。
     「ありがとう」
     振り返り、フィアは涙を流しながら一生懸命笑ってみせた。
     「さよなら・・。あなたに出逢えて、わたくしは幸せでした」
     にじむ笑顔。

     その場にいた誰もが、フィアに魅了されたかのようだった。
     フィオスは暫くフィアに見とれていた。
     儚く散り行く桜のような、それでいて強い決意のこもった笑顔だった。
     
     
     フィオスは、フィアを見送ると、自らも王宮へと入ってゆく。
     「お待ちしておりました。ご苦労様です、フィオス様」
     門の前で、細身の老人が深々と頭を下げた。
     「変わった事はないか?」
     歩きながら問うフィオス。
     「いえ。大きなことはありません」
     「そうか」
     フィオスは、一刻もはやく、デントフォール王として、フィアに会いたいと思った。
     (怒るかもしれないな・・・)
     自然と、フィオスはやわらかい表情になった。