王妃の資格
<フィオス編12>


       フィオスはフィアと宿に戻る。
       
       湖の件で、二人の距離はずいぶん近くなった気がする。
       (なんだか、本当の恋人同士みたいだったな。)
       フィアはまだ、自分の本当の身分を知らない。
       (打ち明けたくもあるが、まだ無理だな。)
       はやる自分の気持ちを理性で制御する。
       (こんなにも、誰かを愛おしいと思った事はあっただろうか?)
       フィオスは自分がどんなにやさしく、幸せな笑みを浮かべているか気づかない。
       (本当は、もっと試すはずだった。だが。)
       そう、フィオスは王宮に戻っても姿を見せず、姫君たちを試そうと予定をたてていた。
       (彼女が、一番王妃に相応しい。)
       その事を、フィオスは喜べた。
       フィアが王妃に相応しくなくても、フィオスは彼女を愛しただろう。
       だが。
       一国の王としてのフィオスがそれを許さない。
       フィアはフィアとして、王妃に相応しかった。
       
       「私のわがままで、あなたたちを寝ずに待たせてしまったわ、ごめんなさい」
       フィア付の侍女と、待ってくれた者全員に向かって、フィアは言った。
       「そんな事はありません、わたくし達は、仕えるものとして、当然のことをしたまでです」
       「そうです、フィア姫といる事ができて、むしろ光栄なくらいです」
       フィアは微笑む。
       「よろしければ、皆様と一緒に、お話がしたいのですが」
       
       フィアは下々の者と、沢山の話をした。
       フィオスは明日の支度をしていた。
       笑い声が聞こえてくる。
       フィアの、そして皆の。
       (彼女の周りは、いつも暖かいな。)
       
       フィアが王妃になった所が、想像できる。
       
       フィオスは何も言わず、馬の世話をした。