王妃の資格
<フィオス編8>

      フィアは戸惑っているようだった。
     「もうそろそろ、今日泊まる宿屋に着く」
     「よかったわ
おなかがぺこぺこなの」
     フィオスを見ないでフィアは窓から景色を見た。
     「きれい・・・・」
     何時でも雄大な自然に心打たれるフィア。
     「君の方がきれいだな」
     紫の瞳とエメラルド色の瞳、お互いをじっと見つめあう。
     フィオスにそういわれて、喜ぶ女は多かった。
     もし、フィアがそういう女なら、フィオスは彼女に惹かれられなかっただろう。
     「ありがとう」
     やわらかく微笑むフィア。
     否定をするでもなく、肯定するでもなく、フィアは笑った。
     うれしくないのに、相手に答える意味で、フィアはありがとうと言ったのだ。
     
     馬車が止まった。どうやら宿屋に到着したようだ。
     
     
     馬車を降りようとすると、フィオスが手をさしだした。
     一瞬戸惑ったが、フィオスの手をとるフィア。
     お互い見つめあい、思いあっているかのようなまなざし。
     それは、まるで映画のようなワンシーンだった。
     
     フィアは、薄い金色の髪に、エメラルド色の瞳。
     対するフィオスは、黒の髪に、紫水晶の瞳。
     
     やわらかで上品なフィアに対し、自信に満ち、気品のあるフィオス。
     
     何もかもが、正反対の二人だった。
 
     でも、とても絵に描いたように似合っていて・・・
     
     もちろん、当人たちはそんな事、わかるはずもなく。
     
     自分の気持ちに正直なフィオス。
     (私は、もしかしたら、運命の人に出逢えたのかもしれない。)
     一国の王として、意にそまぬ相手を妻に迎えてもいいとは思えていた。
     王妃にふさわしいものであればいいと思っていた。
     だが。
     フィオスは、フィアに出逢えたのだ。
     (彼女は民に愛される王妃になれるだろう。)
     
     フィオスは、彼女に出会えたことを、神に感謝した。