王妃の資格
<フィオス編4>
(ほう・・噂どおりの姫君みたいだな。)
フィオスは、彼女を捕まえようとはしなかった。
「どうされましたか?」
フィアはかけよるとそっと老人がびっくりしないように小声でささやいた。
フィオスはフィア姫の後ろに立った。
「フィオス、彼女を起こしてくださらない?」
フィオスは何も言わず老人をおこした。
「おなかがすいているのですね?」
老人は何もいえないでいたが、頭をこくこくとふり、おなかがすいていることをしめした。
「フィオス、ごめんなさい、私の今夜食べるはずのお弁当があるはずなの、それを・・・」
「とってきて欲しい、ですか?フィア姫」
あきれた顔をして見せたが、フィオスはだんだんとフィアを理解出来てきた。
(はじめてかも知れない。こんな女性に出会えるのは。)
フィアは自分が食べるはずだったものを、ゆっくりと老女にわけ与える。
フィアは、彼女に微笑み続けた。
「あの老人をどうする気です?」
老人に聞こえない範囲にフィアを連れて行き、フィオスはフィアに問う。
「この国には彼女のような人が沢山いるのでしょうね」
フィアは、涙を流した。
(この姫は・・)
あの老女を、哀れんでいるのではないのだろう。
フィア姫は彼女たちの為に、泣いている。悲しんでいる。
(人は彼女のように、誰かの為にここまで泣けるものだろうか?)
「彼女をちゃんとした病院に移して欲しいの」
フィオスはジッとフィアを見つめた。
「お金はどうするのです?」
フィオスにも考えはあったが、彼は彼女の意見を聞きたかった。
「これを」
そう言ってフィアは自分の髪飾りを取ると、フィオスに手渡した。
(かなり高価なものだな)
「私の国で代々受け継がれてきたものよ。売ればかなりするはずなの」
ふう、とため息をフィオスはついた。
「君が我が王の妻になるなら、いい王妃になるだろうな」
不意に、言葉がこぼれる。
「そんな事言われてもうれしくないわ」
(この姫君は今までの姫君たちとは違う。)
「あの老人には面倒を見てくれる者も手配する。それでいいか?」
「おりがとう」
フィアは微笑んだ。
人のことを自分のように喜べるフィア。
フィオスはそんな女性に出会えて、うれしくもあったが、フィオスもまた
いま通っている王国の事を考えていた。
(私が即位したからには、もう好きな事はさせない。)
「かんざしは本当にいいのか?」
「それが一番高価なの。それに、私がしたこと、お父様は喜んでくれるはずだわ」
「うわさどおりのいい国王なのだな」
(そして、君も。)
フィオスは口に出さずにそう思った。
フィアにそういっても、喜ぶような女ではないと理解したからだ。
「ありがとう、うれしいわ」
二人はみつめ合った。
「君は、国の為、アース王の命令で、試験を受けに来たんだな」
フィオスの問いに、フィアは想像のつかなかった返事をする。
「・・いえ、それが、私は自分からわがままを通して、試験を受けに来たの」
少し困った表情をするフィア。
(自分から、申し出たというのか。)
フィオスはそういう姫を、フィア以外に知らなかった。
「アース王は反対したのか?」
言葉が少しはやくなる。
「いえ、反対はしなかったけれど、賛成も最初はしなかったわ。」
フィアは微笑んだ。
(どちらも立派だな。)
フィオスはフィアをもっと知りたいという想いにかられた。