王妃の資格
<フィオス編3>

       暫く沈黙が続いた。
       (何も反応を見せない、か。)
       フィア姫は、くすくすと笑い出した。
       これは、フィオスは想像していなかった反応だった。
       フィオスは少し目を細めた。
       「おかしいわ、フィオス。おかしすぎるわ」
       今までにない、反応だった。
       「・・・どうして笑っていらっしゃるのですか?」
       くすくすと、フィアは笑っている。
       「あなたにはそういう女に見えたのね。だとしたら謝るわ」
       今までの姫君との反応が違いすぎる。
       フィオスが挑発したのに、フィア姫は笑いながら謝罪したのだ。
       「よければ敬語でなくふつうにしゃべってほしいのだけど。よろしいかしら?」
       (今までにない姫君だな。)
       「まだ理由を聞いてない」
       急に口調が変わったことに驚きもしないでフィア姫は相手をまっすぐと見た。
       「そうね・・富と名誉ね・・・。確かに誰もが欲しがるものかもしれない。でも」
       フィオスは彼女を見た。
       「でも?」
       フィア姫は微笑んだ。
       「でも、私には必要ないわ」
       フィオスは自然とフィア姫を見た。
       (面白い。)
       フィア姫は、フィオスが今まで見てきたどの姫君たちとも違っていた。
       
       「あなたは、女嫌いなの?」
       「・・・・・」
       フィオスは何も答えない。
       フィオスは、高価なものを見て喜ぶような女達は確かに好きではなかった。
       だが、自分の愛せる女性はきっといると信じていた。
       もう、その女性に出会えているが、今のフィオスはまだ気づいていない。
       「だとしたら、私の案内役なんてさせてごめんなさい」
       「君が謝ることじゃない」
       どうやら、フィア姫は噂どおりの姫君のようだ。
       相手の事を思いやれる、やさしい姫君。
       清らかなる天使。
       そう呼ばれるに値する姫君のようだ。
       フィアの父、アース王も民に敬愛されているが、フィア姫も、その母王妃も民に支持されている
       事を、フィオスは知っていた。
       どういう風に支持されているか、フィオスは知りたくなってきた。
       「やっと、あなたらしい口調になったわね」
       「計算してしゃべっていたのか?」
       「そういうわけじゃないけど」
       (だとしたら、わたしをわかっているとでも?)
       「そう、私がどうしてデントフォール王の所に嫁ぎたいかについてね?」
       フィオスはジッとフィア姫を見た。
       「国の為にか?」
       「そう、国の為によ。お父様の治める王国は小さいわ。民に愛され支持されているし、
       とても素敵な国よ、誇りに思ってる。でも、問題は領地が小さすぎるという所なの」
       確かに、アース王国は小国だ。軍事力もないに等しい。
       もしも戦争になったらとてもではないが残れない、そんな国だった。
       「なら、自分の気持ちはどうする?」
       フィオスは、また、フィア姫を試す。
       「え・・・・?」
       フィア姫は、意味がわからずとまどう。
       「君を妻にと思っている男は多いのだろう?」
       女は、何よりも自分の愛する者を選ぶ。
       フィオスは、フィア姫が動揺すると思っていた。
       18歳だ。まだ若いとは言え、好きな男の一人や二人はいるだろう。
       フィオスはそう考えた。
       「聞こえていたのね」
       フィア姫は否定も肯定もしなかった。
       気のせいだろうか、声が少し低い。
       「デントフォールはいい王国だと聞いたわ。民も王を支持しているって。
       商業も、栄えているし、軍事力もある。それを統率できているのだから、デントフォール王は
       とても優秀な王なのだと思っているの」
       (冷静だな。それに、よく知らないと言ったわりに、デントフォールを知っている。)
       「だから・・・・」
       突然、馬車が止まった。
       反動で倒れそうになるフィア姫を、フィオスは支えた。
       「何事だ」
       「は!それが、人が道先に倒れておりまして・・」
       聞き終わると同時に、フィアは馬車を降り、道に倒れている老人の方へと向かった。