王妃の資格
<フィオス編1>


        「ふう・・・」
       フィオスはため息をついた。
    
       馬車は、最後の試験を受ける姫君のもとへと向かっている。
       (今の所は、アンジェローズ王女が一番良かったな。)
       だが、とフィオスは思った。
       アンジェローズがもし、后になるなら、立派に使命を果たしてくれるだろう。
       (問題は、私の気持ちだな。)
       フィオスは、アンジェローズを好ましく思ってはいたが、
       恋愛感情は沸き起こらなかった。
       (次はアース王国のフィア姫か。)
       
       聞くところによると、フィア姫は見た目が美しいだけでなく、心のやさしい
       清らかな姫だということだ。
       沢山の求婚者を、笑顔で丁寧に断っているらしい。
       (私にあったらどうなるだろうな)
       フィオスは自分をよくわかっていた。
       女は彼を見るとたちまち魅了されてしまうような、そんな容姿をフィオスは持っていた。
       (フィア姫が噂どおりの、きれいな心の持ち主なら、いいのだがな)
       
       そう、フィオスは、デントフォール王国の王、ハンス6世その人だ。
       即位後は、おもてに出なかったため、彼のことを知る者は少ない。
       だが、彼の統治するデントフォール王国は、この世界で一番の大国で、彼の代に
       なってから、ますます繁栄を極めていえる。
       民からも支持を受け、受け入れられている。
       
       馬車が止まる。
       (着いたか)
       フィオスは馬車の窓から、少し外を見る。
       外では、アース国王と王妃、そしてフィア姫と思える人物が話をしている。
       
       王妃がフィア姫の額にキスをした。とても愛しそうに。
       「王に見初められなかったら、帰って来い。お前をフィアンセにと思っている者は
       沢山いるのだから」
       こちらに近づいてくるフィア姫に、王が心配そうに言った。
       フィア姫は、少し戸惑ってから、微笑んで馬車の中へと入ってくる。
       「行ってまいります」
       少し顔を出して彼女はおじぎした。